今まであまり馴染みがなく、どこか遠い存在だったドライフラワー。ある先生との出会いがきっかけで、道端のお花で、そしてとても簡単に、暮らしに彩りが添えられることを知った。
ひなたエキスの秋田店には、ドライフラワーのリースと花束が飾られている。着色のされていない、自然と褪せた色で、壁や客席の机を彩り、カフェスペースに温かみを添えてくれている。
制作とディスプレイをしてくださったのは、秋田店のご近所にある、アトリエ和沙の金和子さん。飾られているリースや花束には、彼女がご自分で採集した野の草花も使われている。彼女の作品をみると、普段何気なく見過ごしている草や花のひとつひとつが、こんなに繊細な造りをしているのか、とその美しさにはっとさせられる。きっと彼女と山に入ったら、山菜を採りに行く時とはまた違った景色が見えるようになるのだろう。
また、リースと花束を持ってきてくれただけでなく、秋田店オープンのお祝いで色々な方から頂いた生花の中からも、ドライにできるものをまとめ直して、ドライフラワーの花束としてまた新たな命を吹き込んでくれた。お祝いで頂いたものを、さらに長く楽しめるのはとても嬉しい。
そんな彼女の作品に魅せられ、私もドライフラワーを作ってみたい、という気持ちが生まれた。まずは、自分の手が届くところから。ひなたエキスのお店の周りや、仕入れに向かう道中で出会った草花を、ドライフラワーにしてみることにした。
ちょうどその頃は5月下旬。秋田では、菜の花や藤の花がそこかしこに咲き乱れている時期だ。他の花々も道端に咲き始める頃で、何も苦労せずに素材を集めることができた。お花の師匠である和子さんが、「ぺんぺん草とか、小さいお花も、わっとまとめて飾ればそれだけで素敵に飾れるよ」と教えてくれたのを思い出しながら、思いきりよく収穫した。
空き地に咲く菜の花を、鎌を使って根元から刈っていく。重量感のある束にするためには、思っていたよりも沢山刈る必要があった。途中から、こんなに沢山刈ってしまっていいのかな、と少しためらいが芽生えたのだけれど、つい数日前に、草刈り機で庭の草をバサバサと際まで刈った自分の姿を思い出して、自分勝手だなと可笑しくなった。
ドライフラワーには、代表的な作り方がいくつかある。シリカゲルや電子レンジで作る方法もあるのだけれど、今回は、設備や準備が必要ない、吊るすだけ、という方法を試してみることにした。除湿機などの設備もないので、本当にただただ吊るすだけ。
平日の昼間、お店の駐車場のベンチに、採ってきた素材を広げて、作業開始。採ってきた草花を、親指と中指の輪っかに収まるくらいの量ずつに分けて、麻紐でくくっていく。茎の下の方のいらない葉っぱや、一緒に採ってしまっていた別の草も、この時に取り除いた。
草花に触れる感覚に夢中になっていると、あっという間に可愛い束ができ上がった。この作業をした日は、閉店後にすぐに田沢湖から秋田市に向かう予定があったので、車の中に即席ドライフラワーブースを作ることにした。
窓を少し開けて、自然の風にあたりながら車を走らせていると、後ろでお花たちもゆらゆらと揺れていて、とても可愛らしかった。用事を済ませ、お家に帰ってきてからは、玄関の壁にお引っ越し。秋田市までのドライブの道中に、新たに見つけて摘んだお花も、一緒に画鋲と麻紐で吊るした。どこに飾ろうかな、何を使ってどんな風に飾ろうかな、と考えながら飾りつけていく作業も楽しい。
吊るし始めてから3週間ほど経つと、お花たちも良い感じにドライになってきた。うちの玄関は風通しが良いわけではないのだけれど、ちゃんと乾燥してくれた。さて、ここからどうアレンジできるのか、全く検討がつかない。改めて、花束をつくる方達のセンスと技術に感服だ。ただ、先日、お家に遊びにきてくれた友人がこの壁を気に入ってくれたことと、帰宅すると毎日お花が出迎えてくれることが嬉しくて、今は飾っているだけで満足してしまっている。また気が向いたときに、花束にしたり新たなお花をドライにしたりして、誰かに贈れたらな、と妄想を膨らませつつ、もうしばらくこのまま過ごすことにしよう。
ひなた暮らしの師匠紹介:金和子さん
自然豊かな秋田市河辺にアトリエを構える、ドライフラワーアーティスト。ひなたエキス秋田店のご近所に住んでいることからご縁が繋がった。彼女の制作は、アトリエ近くの里山に出かけていき、草花や木の実を自分で集めてくるところから始まる。自然の中に豊かさを見出す感性をもって、素材ひとつひとつの形や色を、そのままの風合いで活かした作品作りを行なっている。快活でお茶目な人柄とテキパキとした手際の中にも、草花に対する愛おしさが溢れているのが伝わってくる。